月別: 2016年9月

京セラと理研が毛髪再生医療の分野に参入

かつては悩んでもあきらめるしかなかった薄毛も、今では男性ホルモンのテストステロンが5αリダクターゼという物質によってジヒドロテストステロンという悪玉のホルモンい変わり、それが毛母細胞に入り込んで発毛、育毛の働きを抑制していることが原因のAGAであることが分かり、そのための治療法として男性ホルモンの分泌量を調整したり5αリダクターゼの出現を抑える治療薬や頭皮の血流を良くして毛母細胞に必要な栄養をしっかり送り届けるための血管拡張剤などの外用薬を用いて治療を進める専門医もたくさんあり、薄毛は治療で改善できるものになりました。

 

そしてさらに薄毛の方に朗報があり、臓器や筋肉、皮膚、毛髪など様々な体組織のもとになる多能性幹細胞、いわゆる「iPS細胞」が毛髪再生を可能にするということです。通常のiPS細胞は、たとえば一度皮膚の一部になると皮膚として形成されていくのですが、iPS細胞に特定の遺伝子を導入して培養することで様々な組織の細胞になり得ることができるようになるということが発見されたために再生医療分野の発展に大変期待できるようになりました。神経回路が切断され改善が不可能だった病気においてもiPS細胞によって作られた神経細胞を移植することによって失われた神経を取り戻すことができるというもので、それが毛包の再生でも同じことがいえるということです。毛包再生医療としては現在も後頭部の正常な頭皮の一部を切り取り毛髪細胞単位で脱毛している部分に移植するという方法が行われていますが、これには移植した毛包の数はそのままで増えることがないということ、頭皮を切り取るなどして傷つけなければならないという課題があるのです。しかし現在研究中の再生治療としては、正常な頭皮からごくわずかな検体を採取し、上皮性幹細胞と間葉性幹細胞に分解し、そこから原基をたくさん作り脱毛している部分の移植をするというものなので、頭皮をあまり傷つけることなく、毛髪が増えていくというもので、現在行われている移植手術の課題を解決することができます。

 
さてその毛髪再生医療を受け、京セラが理化学研究所やオーガンテクノロジーズとの共同研究に乗り出しました。京セラは電子部品作りの微細加工技術を生かし、細胞の自動培養装置を開発を目指していて、理化学研究所は毛のないマウスに人工的に増殖した人間の細胞を移植して毛を生えさせることに成功し、毛包を上皮性幹細胞と間葉性幹細胞に分けて加工して作るという技術を持ち、毛髪細胞を100倍から1000倍に増やせる技術があるため現在の移植手術のように広範囲にわたって頭皮を切除しなくても済むというメリットをもっていて、オーガンテクノロジーズは再生医療のノウハウを持っているため、京セラ、理化学研究所、オーガンテクノロジーズの3社が組むことで、より効果的な装置を作ることが期待できるのです。そして京セラは医療機関から預かる患者の頭皮組織を約3週間かけて加工して培養したものを医療機関に出荷するという計画を2020年をめどに進めています。現在の男性型脱毛症に対するホルモン調節や頭皮の血流を促進する治療などはすべての症例に有効ということはなく個人差もあり、また体質によってはその治療薬が合わないということもありますが、このような再生医療技術が進むことで、男性型ホルモンが原因のAGAに限らず日本国内で1800万人にものぼる脱毛症で悩む人たちにとって、頭皮をあまり傷つけることなくふさふさの毛髪を取り戻すことができるという期待をもて、また誰が薄毛に悩むことになるかもしれないので、現在悩んでいる人たちのみならず、また男女問わず人類全員にとって期待したい研究です。